麺通団のうどラヂテキスト版 編集 田尾 和俊

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団長:前回「讃岐うどんテーマパーク」という言葉が出てきたんやけど、あれは結構重要なコンセプトを表してる言葉なんよな。

ごん:僕らも割としょっちゅう使いますからね。

団長:そこで、それに触れた回にちょっと加筆して、改めて認識を深めておこうと思います。

讃岐うどんテーマパーク

団長:「讃岐うどん巡りブーム」は今やブームを超えてすっかり“高値安定”のレジャーコンテンツになってるけど、とりあえずまだしばらくは大丈夫だとは思うんよ。

ごん:まあ確かに、急に人が来なくなるような気配はないですからね。

団長:長続きしそうな要素をいくつか挙げると、まず「絶対一度は行きたい店」が数軒じゃなくて数十軒あるから、全部行こうと思ったら1回来ただけではとても全部回れないので、かなりの確率で「讃岐うどん巡り客」はリピーターになるということ。

ごん:確かに、普通の観光地は1回行ったら2回目はなかなか行かないですけど、讃岐うどん巡りは観光地よりリピーター率が高そうですね。

団長:さらに、その「絶対一度は行きたい店」の中に、素材力というか魅力度がさらに高い「絶対もう一回行きたい店」というレベルの店がいくつもあって、それらが単独で相当数のリピーターを生み出しているというポテンシャルもある。

H谷:県外客のリピーターがいる店、結構ありますね。

団長:ほんで、そうこうしているうちに全国の子どもたちが大人になってくるから、構造的に言えば新規客はエンドレスで供給されると。

ごん:あと、海外にも新規客が山ほどいますしね。

団長:だからまあ、まだしばらくは大丈夫だとは思うんやけど、かと言って何もしなかったら、中期的にはジリ貧になっていく恐れもある。「水平飛行するには常に機首をちょっと上げとかないかん」いうのはビジネスのセオリーやから、現状維持をするにも何かやり続けないかんわけだ。

ごん:といっても、何をやってもいいというわけではなくて…。

団長:もちろん、効果のないことをやり続けたり、やってはいけないことをやったりしてたら、アッという間に衰退するという懸念も全くないわけではない。ビジネスの世界でも、圧倒的なシェアを誇っていたところがヘタ打って転落するという事例は結構あるから、何事も「あぐらをかいとったらいかん」いうのは観光戦略も同じや。そこで、トンチンカンなことをやらないために、「中長期的な完成予想図」を頭に描いて戦略を立てることが大事になる。

ごん:「讃岐うどん界がこうであれば継続的に客が来るだろう」という完成予想図ですね。

団長:その「讃岐うどん界の中期的完成予想図」なんやけど、かつてパロマスが発した一世一代の名言、「香川県は讃岐うどんのテーマパークである」というやつがおそらく一番シンプルでわかりやすい完成予想図なんだろうと、不詳ワタクシ、思っているわけです。

ごん:はいはい。

団長:具体的にイメージするなら、香川県というこの狭いエリアのテーマパークに「うどん屋」というアトラクションが600ぐらいあって、そこに全国からお客さんが来ているという姿。

ごん:わかりやすいですね。

団長:ということは、「テーマパークが存続するために何が必要か」と考えたら、「讃岐うどんテーマパーク」に何が必要かもわかりやすくなる。すなわち、「魅力のあるおもしろいアトラクションがたくさんある」という状態を維持することが一番の戦略になるわけです。

ごん:しかもその中に超人気アトラクションもあってね。

団長:「讃岐うどんテーマパーク」で言えば、超人気アトラクションが山越、がもう、なかむら、山内、谷川米穀店、田村の「レジェンド6」。かつては宮武を入れた「レジェンド7」やったけど、宮武が閉店して超人気アトラクションが1つ減ったことがわかる。

H谷:そう見たら、この20年ぐらいで結構人気アトラクションが閉店しましたよね。

団長:減ったねえ。『恐るべきさぬきうどん』組で閉店した店を見出し付きで挙げてみると、こういうラインナップになる。

「舌に焼きつくいりこだし」…高松市・久保
「吉田橋のうどん屋じゃ」…高松市・入谷
「ドライバーのうどん」…飯山町・木村
「うどん粉のプロが保証する味」…坂出市・彦江
「うどん鉢持って下町人情」…高松市・中浦
「追憶のだし」…高松市・丸山
「中北、復活!」…高松市・中北
「太いのと、細いのと」…高松市・松家
「おあいそはどちら?」…高松市・さんわフードセンター
「ナメ殺しのヒヤ」…高松市・讃岐家
「でっかい大」…高松市・えびす
「掘り出し物のしょうゆうどん」…宇多津町・讃岐の里
「奥のあぜ道」…高松市・谷川製麺所
「国分寺の盲点」…国分寺町・ジャンボ豊
「残された憧れ」…高松市・谷本
「最後の下町」…高松市・くぼた
「驚愕のひやひや」高松市・あたりや
「たからだの宝」…・財田町・橋村
「秘技ネギばさみ」…綾南町・赤坂製麺所
「満濃の勝手口」…満濃町・近藤
「信長襲来」…坂出市・てっちゃん
「宮武ファミリー004」…綾南町・松岡
「聖杯のありか」…観音寺市・岩田屋
「温室の中」…多度津町・根ッ子
「巡礼の途中」…高松市・増井米穀店
「肉と良心」…観音寺市・萬城屋
「ガーデニングうどん」…琴南町・花畑
「港の灯り」…観音寺市・小浜食堂
「じゃりんこの宿」…香川町・名もないうどん屋

H谷:すごいラインナップですね。

ごん:見出しを見ると、なおさら閉店が惜しまれます。

団長:そこよ。この「その店にしか当てはまらない見出し」いうのがいわゆる「差別化された付加価値」というやつで、これが「バラエティーな人気アトラクション」になる店の大きな条件になるわけだ。

ごん:「コシがあってボリューミー」みたいな、別の店に付けても通用するような見出しじゃないってことですね。

団長:「新鮮な瀬戸の幸をふんだんに使った」みたいな料理屋とかね。

ごん:「甘さを抑えたヘルシーなスイーツ」とかね(笑)。

団長:「外はカリカリ、中はジューシー」とかね(笑)。いかんいかん、あんまり言いよったら三流のライターが原稿書けんようになる(笑)。ちなみに、「ゲリ通」には書いたけど『恐るべき』を出す時に既に閉店してたので載っていない店の中で私のお気に入りの見出しは、高松市の「かながしら」に付けた「世界最大の小」(笑)。

H谷:「小」なのに天かす載せたらほとんどが転げ落ちるやつですね(笑)。

ごん:確かに、今あったら一度は行ってみたくなる見出しです(笑)。

団長:あと、『恐るべき』以降に閉店した初代の上戸や、橙家、道久、安並、兵郷、泉屋、百こ萬、まるちゃん…等々もみんな、俺に原稿書かしたら全部「その店ならではの見出し」が付く「讃岐うどんテーマパーク」の人気アトラクションだったんやけど、なくなっていったよねえ。

ごん:その代わり、新しい店もたくさんできましたけどね。

団長:確かにこの20年で新たにたくさんのうどん店ができたけど、「讃岐うどんテーマパーク」という完成予想図から見たら、「魅力的な見出しの付く“人気アトラクション店”がどれだけカバーできてるか?」というのが大きなカギになってくる。そういう視点をちゃんと持ってたら、「うどん県行政」や「うどん業界」や「地域メディア」や個人の「うどん情報発信者」たちも「讃岐うどんテーマパークの完成予想図」に対して整合性の取れた戦略が出てくると思うわけだ。

ごん:なるほど、つまり要約すると、「イベントばっかりやって満足してるんじゃない」と。

H谷:「グッズとか作って満足してるんじゃない」と。

ごん:「ポスターやパンフレットや動画やキャッチコピーみたいなPRツールを作って満足してるんじゃない」と。

団長:…と、ごんさんとH谷川さんがおっしゃっています。

ごん・H谷:おっさんおっさん!

団長:ま、イベントもグッズもPRツールもお金が余ってるのならやらないよりはやった方がいいと思うけど、「中期的に人気を継続したいのなら、それ以上に大事な視点があるのではないか?」という、「讃岐うどんテーマパーク」のざっくりしたお話でした。

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