麺通団のうどラヂテキスト版 編集 田尾 和俊

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団長:「讃岐うどん巡りブーム」は勃発からもう30年ぐらいになるけど、県外客にとってみると、まだまだ“謎”の部分が多いみたいで。

ごん:うどん屋での振る舞いの失敗談も後を絶ちませんからね。

団長:というわけで今回は、そんな讃岐うどんに関するいくつかの疑問に“麺通団的”にお答えした回です。

ごん:まあいつも“麺通団的”にしかお答えできないんですけどね(笑)。

県外人の疑問に答えます

団長:質問のお便りを頂いております。

団長ごんさんH谷川さんこんにちわ。

ごん:どうも。

埼玉在住の「きせんあんしょうゆう」です。これまで幾度となく香川にうどんツアーに出かけている私ですが、製麺所やセルフの店を中心に回っていたので一般店に行く機会が少なくて、そのため、香川県の方にとっては常識以前の話なのかもしれませんが、県外客の私にとってはどういうものなのか今ひとつわからないメニューがいくつかあります。

ごん:はいはい。

まず、「かやくうどん」。これは「かやくご飯」のように漢字で書けば「加薬」だと思いますが…

団長:「かやくご飯」の「かやく」って、そう書くのか。

H谷:「かやくご飯」も「かやくうどん」も、「かやく」はひらがなで書いてるメニューしか見たことないですね。

団長:「薬味を加える」みたいな話か。

ごん:そんな感じですかね。

団長:少なくとも、火ぃつけたらドーンといく「火薬」ではない。

ごん:絶対違います。

団長:こうやって漕いで水の上を走ったりもしない。

ごん:それはカヤック。

H谷:勉強になります。

…ということで、いろいろと具材の入ったうどんなのかなあ…という認識でいるんですが、正しいでしょうか。

団長:なるほど、「かやくご飯」は「いろんな具材を炊き込んだご飯」だから、「かやくうどん」も知らん人が聞いたら「いろんな具材が入ったうどん」かと思うのか。

ごん:言われてみれば確かに、その方が言葉の整合性は取れますよね。

団長:しかしところが、讃岐うどんの「かやくうどん」は、そもそもは「具がちょっとしか入ってないうどん」がほとんどなんよね。

H谷:そうですね。かけうどんにちょっと具が入ったぐらいで。

団長:基本的には、かけうどんに薄く切ったカマボコと、ちっちゃく三角に切った揚げと、ちっちゃく三角に切った薄い卵焼きが入ってるぐらいのうどん。

ごん:まあそんなもんですね。

団長:ついでに言うと、讃岐うどん全体の中で「かやくうどん」は全然ポピュラーじゃないメニューです。しかも、あったとしてもたいてい一般店で、製麺所型とか大衆セルフのメニューではほとんど見ない。製麺所型とか大衆セルフは「かけうどん」でうどんだけを食べるのも普通だし、何か具が欲しい時は天ぷらなんかをオプションで取って乗せたらいいから、あえて「かやくうどん」というメニューを作る必要がないんだと思います。

ごん:一般店はうどんだけの「かけうどん」が何か安っぽすぎてメニューにしづらいから、そこに揚げやカマボコを乗せて体裁を整えて出した…とかいうのが始まりだったんじゃないですかね。

団長:有力な仮説です。

H谷:ちなみに「おか泉」の「かやくうどん」は、シイタケやワカメも入ってちょっと豪華です。

ごん:さすが「おか泉」。

団長:続きまして、2つ目の疑問です。

そして、全くというか、ほとんどわからないメニューが「きざみうどん」です。「うどん棒」に行った時も、団長お好みの「きざみうどんユズ抜き」には見向きもせずに「ざる」を食べてしまったこともあり、どういうものか想像もつきません。何かを刻んで入れているから「きざみうどん」なのかとは思いますが。

ごん:正解です。

団長:何を刻んでいるかというと、「うどんです」。

ごん:おっさんおっさん! 

H谷:ここで団長がウソをつくとは、油断してました(笑)。

団長:訂正します。刻んでいるのは、「揚げ」です。揚げを刻んだ場合だけ「きざみうどん」という名前が付きます。ネギを刻んであっても「きざみうどん」とは言いません。

ごん:もしかしたらどこかに何か他の物を刻んで「きざみうどん」いうて出しているところがあるかもしれませんけど、少なくとも僕らは見たことないですよね。

団長:見たことない。で、「きざみうどん」の特徴としては、私の知る限りでは、揚げにきつねうどんの揚げみたいに甘辛い味が付いていない。

ごん:そうですね。ちょっと薄味は付いてるような気がしますが。

団長:それから、「きつねうどん」は揚げが1枚ベタッと乗ってくるから何回もかじりながら食べることになるけど、刻みうどんの揚げは細く刻んであるから麺と一緒に具材のように取れて、比較的上品に食べられる(笑)。

ごん:揚げの味わいも、ちょっと上品な感じがしますからね。

団長:続きまして、「打ち込みうどん」が疑問だとおっしゃっています。

「八十八庵」のものなどをホームページで見ると、「打ち込みうどん」は山梨の「ほうとう」というか、群馬の「おっきりこみ」というか、そんな感じに見受けられるのですが、実際には何かが入っていなければいけないとか何か定義みたいなものはあるんでしょうか。

団長:打ち込みうどんの定義というと、何やろ。

ごん:塩が入ってない生うどんをダシの中にそのまま入れて、そのまま煮込むみたいな。

団長:麺は普通のうどんの麺と違って塩が入ってないけど、あれは定義というより、そうしないと煮込んでるうちに鍋に塩が出て塩辛くて食えんようになるから必然的にそうしてるということやろ。

ごん:ダシはたいてい味噌味ですね。あと、具材は野菜とか肉とか。

団長:野菜は根菜が多いような気がするね。里芋とかゴボウとかにんじんとか。けどまあ、思い思いやなあ。

ごん:そうですね。店によっていろいろ。

団長:どこかがキムチ鍋のスープみたいなのに生麺を入れて煮込んで「キムチ打ち込み」とかネーミングしても、「ああなるほど」と思ってしまうぞ。

ごん:確かにそれはアリですね。

団長:あるいは羊の肉を使って「ジンギス打ち込み」とか出されても、「考えたなあ」とか言うて感心してしまいそうやん。

H谷:そう言われると何か、いろんな打ち込みメニューができそうですね。

ごん:これ、打ち込みうどん界に新たな可能性を提示したんじゃないですか?(笑)

団長:ということは、結局「定義」となると何だ。「生麺を具材と一緒に煮込む」ぐらいしかないのか。ちなみに、田舎風打ち込みうどんの香川県の最高峰は、「八十八庵」です。「当社比」ですけどね。

ごん:「当社比」というより「団長比」ですけど、多くの皆さん異論はないと思います。

団長:それから洗練された都会風打ち込みうどんの最高峰は、「焼肉なかむら」の打ち込みうどんです(笑)。

ごん:これは「麺通団比」です(笑)。

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