麺通団のうどラヂテキスト版 編集 田尾 和俊

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団長:今年は「閏(うるう)年」ですが、「閏年」と聞けば誰もがすぐに思い浮かべるのが…

ごん:何でしょう。

団長:「逆打ち」やね。

ごん:思いもよりませんでしたけど。

団長:あれ、昔、穴吹工務店のエライ人が「さかうち」って言ってたから俺もずっと「さかうち」やと思ってたんやけど、正しくは「ぎゃくうち」なんやって?

ごん:「ぎゃくうち」ですね。

団長:それで調べたら、建設工事用語で「逆打ち(さかうち)」っていう技術があるらしい。

ごん:なるほど、穴吹工務店のエライ人は「工務店読み」をしていたんですね(笑)。

団長:ちなみに、「逆打ち」は「四国霊場88カ所を88番から逆に回ると、御利益がさらに3倍!」とかいうことらしいけど、その由来とされる伝説があってね。

ごん:何か聞いたことありますよ。

団長:伊予国の「衛門三郎」という強欲な金持ちのところへ、弘法大師がみすぼらしい姿で托鉢に行ったと。そしたら、その僧が弘法大師であることを知らなかった衛門三郎が追い払おうとして弘法大師が持ってた鉢を竹ぼうきで叩き落として、鉢が8つに割れたと。

ごん:はいはい。

団長:そしたら、衛門三郎に8人おった子どもがその年から1人ずつ死んでいって、8年目に子どもがみんな死んでしまったと。

ごん:なるほど、何か呪われたわけですね。

団長:そしたら後で「あの時のみすぼらしい僧が弘法大師だった」ということがわかって、衛門三郎が弘法大師に会って謝ろうと思って四国遍路の巡礼に行ったんやけど、88カ所を20周もしたのに全然会えんで、ふと思い立って逆回りに巡礼してみたら弘法大師が現れて、「あの時はすんませんでしたー」言うて謝ったと。

ごん:そんなテキトーな謝り方ではなかったとは思いますけど、まあそういうことで許してもらったと。

団長:それで、「逆に回ったらお大師さんに会える確率が高い」とか「御利益がさらに倍!」みたいになってきたという話らしいんやけど、この伝説の「お大師さんが呪いをかける」という内容が、私にはどうもなじめんのよなあ。

ごん:と言いますと?

団長:呪いや鎮魂やいうのは仏教でなくて神道に出てくる概念やし、お大師さんが「嫌なことをされて仕返しする」いうのも何か違う気がするやん。

ごん:そう言われれば確かに、お大師さんのすることとは思えないですね。

団長:というわけで、ちょっとあの伝説は、作者なのか作られた経緯なのかわからんが、何かが怪しいという気がしないでもないのですが(笑)、とりあえずその「逆打ち」の話が出てきた回をどうぞ。

「逆打ち」と「八十八庵」

団長:今年は閏年で、四国霊場八十八カ所の巡礼の「逆打ち」をする年らしいんだ。

ごん:あー、はいはい。

団長:通常は徳島県の1番札所から回って行くんやけども、逆打ちの年は「88番札所の香川県の大窪寺から回って行くと御利益3倍増!」みたいな年らしいわ。

ごん:倍増じゃなくて3倍増?

団長:「巡礼3回分の御利益がある」とか言いよった。

ごん:誰が?

団長:どっかのネットのサイトが(笑)。

ごん:じゃあ聞かなかったことにしましょう(笑)。

団長:するとやね、「逆打ち」の年は多くの人が「まず大窪寺に」という回り方をするから、おそらく大窪寺は例年より多くの参拝客が来ると思われるわけだ。みんながみんな88カ所全部回るんだったら結果的には1番も88番も同じだけ参拝者が来ることになるんやけど、やっぱり途中で脱落する人もいっぱいおるし、まあとにかく「88番から回る」ということは、88番にいつもより多めに人が来ると思われる。

ごん:確かに。4年に1回の「逆打ち」と聞いたら「まず88番に行こう」と思いますからね。

団長:さて、するとやね、その例年より多くの参拝客が来ていると思われる大窪寺の真ん前にある「八十八庵」に今、何が起こっているか、という情報が、こないだある知り合いから「八十八庵の女将さんに聞いた」いうて、私に入ってきました。

ごん:いわゆる“又聞き”っちゅうやつですね。

団長:そう。嘘が変形しながら広がっていく原因の第1位の「又聞き」やけど(笑)、実は俺も同じことを「八十八庵」の大将から聞いたことがあるから信用するとして、さて、何が起こっているでしょう。

ごん:普通に考えれば、「逆打ち」でお客さんが増えて打ち込みうどんの材料が足りなくなったとか、おでんのコンニャクが足りんようになったとか、まあそういうことを思いますよね。

団長:そう思うだろ? あのな、「うどんを食べに来る客が減った」んだって。

ごん:えーーっ!

団長:聞いたら、通常は88番が最後やから、大窪寺に来たお遍路さんが「終わったー」いうて達成感の余韻に浸りながら目の前の「八十八庵」に入ってうどんを食べたりお土産を買ったりして帰りよったのに、「逆打ち」になったら最初に来るから、「すぐに次に行かないといけない」ということで、店でゆっくりうどんを食べずにすぐに87番に向かう人が多いんだって。

ごん:なるほど!「のんびりうどん食っとる場合でない」ということですね。

団長:ほんでその知り合いが「逆打ちになるのも善し悪しやなあ」って言うから、「いやいやいや、2番から87番のお寺の前のうどん屋のことを考えたら贅沢な悩みじゃ」いうて返したんやけど。

ごん:あっはっは! 

団長:それでふと思ったんやけど、88カ所のお寺の周りって、どこもあんまり飲食店が集中してないような気がするやん。

ごん:確かにそんな印象がありますね。

団長:あれって、「次に行く」という巡礼のプロモーションがちょっとマイナスに働いとんちゃうかと。それで、「次に行く」いうのがない88番の大窪寺の前の「八十八庵」だけが「うどんを食べる客」を取り込めてるんじゃないか?という仮説を思いついたんやけど。

ごん:いや、それはあるかもしれませんよ。

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