編集 田尾 和俊
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ごん:昔は『うどラヂ』で競馬の話題が時々出てたんですけど、最近あんまり出ませんね。
団長:俺の競馬の話はだいたい事件とかドラマとかお笑いエピソードとかがセットになってるんやけど、もう歳を取ってエピソードが古典ぐらい古くなってきたからねえ(笑)。
ごん:最近の競馬は見ないんですか?
団長:いや、見るけど、断片的に見てるから俺の中でエピソードがなかなか「物語」にならんのよ。
ごん:要するに「一本ネタにならない」と(笑)。
団長:というわけで、うかつに競馬ネタを振ってきたために団長の古典エピソードを聞かされるハメになった回をどうぞ。
ヤマゼントップ
団長:高知県の「はぶ」さんから、うどんに関係ないお便りを頂いております。
ごん:ま、よくあることです。
麺通団の皆様、ポッドキャストで楽しく聴かせていただいております。2012年5月10日、団長のブログで、心をくすぐる素敵な比喩表現に出会いました。
ごん:何ですか。
「ブロードアピールの怒涛の追い込みのような」。
ごん:あー、ありましたねえ。
団長:『インタレスト』の締切で俺が作った計画表、いわゆる「ガントチャート」に対して編集作業が遅れに遅れていたのを最後に一気に追い込んで締切をクリアした時、その勢いを表すのに、ただ「怒涛の追い込み」と書いたのではまだ俺の追い込みの“怒涛さ”が表現し切れてないということで、俺の中でいろんな見たり聞いたり体験した「怒涛の追い込み」の実例の中のトップ3に入る物件として選んだのが、「ブロードアピールの根岸ステークス」なんや。
ごん:マニアックな競馬ファンにしかわからない話ですけど。
団長:一般人向けにかいつまんで説明すると、こいつは最初、芝で走りよったんやけど、途中でダート路線に変更したんや。
ごん:おりますね、そういう適性のある馬が。
団長:当時は、芝からダートに路線変更するのはちょっと“都落ち感”があったんだ。芝の方が賞金が高いレースが多いから、できればみんな芝で走らせてみて、芝でダメだったら「ダートにでも行ってみるかー」みたいな感じで。例えるなら、「仕事おもっしょないけん、会社辞めてうどん屋でもするか-」みたいな感じや。
ごん:いやほんと、昔はよく言ってましたよね(笑)。
団長:今は違うぞ。今は「香川のうどん業界で…」言うたら一目置かれるぐらいになったけど、昔は、というかブームになる前はそういう少なからず空気があってね。当時話を聞いたうどん屋のほとんどの大将が言いよったけど、香川県の料理界、飲食業界の中でうどん屋いうのは格下に見られてたらしいんや。そういうのがあって、巷でも「うどん屋でもするか」「うどん屋でもせえ」みたいな言い回しが半分冗談でよく言われていたと。
ごん:言うてもほんとにうどん屋になる人はほとんどいませんでしたけどね(笑)。
団長:ほんでね、そのブロードアピールがダート路線に進んだ最初のレースの「根岸ステークス」で、ものすごい追い込みで勝ったわけだ。4コーナー回ってほぼ最後方、「そんな所からどの馬が届くんや」みたいな位置の大外からものすごい勢いで追い上げて、直線だけで10数頭をゴボウ抜きしたんやけど、そのレースでフジテレビの青嶋さんが素晴らしい実況をしてるので、もしユーチューブでご覧になるなら、青嶋さんが実況してる動画を探して見ると凄さ倍増です。
真冬の東京ダート1200m、根岸ステークス、左回り最後の直線、目の覚めるような走りを思い出しました。これからもたまにでいいので、素敵な競馬ネタ、比喩表現を織り交ぜつつ、体調を整えながら、ヒシアマゾンのクリスタルカップ1200mも思い出しつつ仕事に励んで下さい。
団長:というお便りですが、ヒシアマゾンのクリスタルカップの追い込みも、最後の50mぐらいが馬とは思えん速さやったなあ。しかしそんなレースを知ってるということは、もしかしたらこの「はぶ」さん、競馬ファンかな。
ごん:誰が見ても競馬ファンです。
団長:じゃあしょうがない。『うどラヂ』リスナーの中では数少ない競馬ファンに、「できれば見ておきたいレース映像」をいくつか紹介しておきましょう。
ごん:リスナーの皆さんすいません。今回の放送は約7人ぐらいの方々にしか刺さりませんので(笑)。
団長:まず、「プリティキャストの天皇賞」。今で言うGIレースの「大逃げ」と言えば、これです。プリティキャストは11頭立ての8番人気。今で言うと7歳のちょっとピークを過ぎかけた牝馬で、しかも前走と前前走は2戦連続で最下位やったから、混戦予想の中で私が一番に「こいつはいらん」と切った馬です。それが1週目の向こう正面で40馬身以上離して逃げるというとんでもない展開になって、テレビの画面で先頭と2番手集団が入るようにカメラを引いたら、馬が米粒みたいになっとんや。ほんで最後、7馬身差で勝ってしまったというレースです。
ごん:なるほど、レース展開と馬券の結果と、二重に記憶に残ってるわけですね。
団長:盛山さんの実況も素晴らしいので、興味のある方はぜひ。続きまして、「ハードバージの皐月賞」。天才福永洋一のイリュージョンみたいなレースや。福永洋一は福永祐一のお父さんね。祐一の奥さんは元フジテレビアナウンサーの松尾翠さん。
ごん:僕ら、うどんの番組でご一緒した方ですね。
団長:はい。1時間番組で松尾さんと一緒に「がもう」と「なかむら」と「三島」と「谷川」と「山内」と映画『UDON』のロケ地に行きました。
ごん:ちょいちょいうどんネタを挟んできますが(笑)。
団長:で、「ハードバージの皐月賞」は、4コーナーを回って中段の馬ごみに包まれてたハードバージが残り100mぐらいで突然最内から現れてそのままゴールするんやけど、VTRを何回見ても、4コーナーを回ってからどこをどう通って来たのかわからんという、“福永洋一マジック”の真骨頂レースの一つなので、これもぜひ。
ごん:福永洋一いうたら、相当古いレースですよね。
団長:「ハードバージの皐月賞」が1977年、「プリティキャストの天皇賞」が1980年。ちなみに、「ハードバージの皐月賞」の時は俺は大学生で、スポニチの「特報部」という競馬、競輪、競艇の編集部でバイトしてたんやけど、部長に「明日の皐月賞は何がええ?」って聞かれて「追い切りはハードバージが一番良く見えました」って言うたんよ。20頭立ての8番人気や。そしたら部長が「田尾君に乗るか」言うてハードバージのいる2枠から2万円ずつ8点、総流ししたんや。あの頃は枠連しかなかったから。そしたら「2ー2」のゾロ目で入って7700円ぐらいついて150万円ぐらいになって、その日の晩、部長のオゴリで特報部の編集室で寿司と酒で宴会したのを覚えている。
ごん:いろいろやってますねえ(笑)。
団長:あとは、3コーナーでレースをやめかけたのにそこから7馬身ちぎってゴールした「マルゼンスキーの日本短波賞」とか、挙げてたら切りがないけど、さらにマニアックのをどうしてもと言うなら…
ごん:誰も言ってませんけど。
団長:なら俺が言うけど(笑)、「ヤマゼントップの菊花賞」。いや、勝ったのはコクサイプリンスやからユーチューブで探すなら「コクサイプリンスの菊花賞」なんやけど、そのレースにヤマゼントップいう馬が出ててね。こいつ、メチャメチャ気まぐれな馬で、それまでの戦績が「1着か大敗か」という、とにかく機嫌がよかったら爆走して勝つんやけど、機嫌を損ねたら全く走る気を出さない。
ごん:いいキャラですねえ(笑)。けど、菊花賞に出てくるということはそれなりに強かったんでしょ?
団長:それなりどころか、ハマったらメチャメチャ強いがな。そのヤマゼントップが大レースの菊花賞に出てきて、「一発あるかもしれんけど信用できん」いうのと「信用できんけど一発あるかもしれん」いうファン心理が交錯した結果、16頭立ての7番人気や。
ごん:いいところに落ち着いてますねえ(笑)。
団長:俺、その日はスポニチの皆さんと一緒に京都競馬場におったんやけど、単勝が20倍ぐらいついとるから、みんな一発狙ってヤマゼントップの単勝を買うとんや。
ごん:あなたは?
団長:俺は大学生やから、楽しく観戦しとるだけやんか。
ごん:そういうことにしておきましょう(笑)。
団長:ほんでね、そのヤマゼントップの単勝が当たるかどうかは、「ヤマゼントップが今日、機嫌がいいかどうか」だけにかかってるんだ。
ごん:あっはっは!そんな予想は初めて聞きましたよ(笑)。
団長:菊花賞は3000mやからコースを1周半ぐらいするんやけど、向こう正面をスタートして4コーナーを回って1週目の直線に入ったら、突然外からヤマゼントップがぐんぐん伸びてきて、正面スタンドあたりであっという間に先頭に立ちました!
ごん:お!
団長:まだスタートして1000mぐらい来たところやから、普通の馬ならまだ先が長いからこんなところで全力を出しとる場合でないんやけど、ヤマゼントップは違うがな。そんな力配分うんぬんより、とにかく「機嫌がいいかどうか」だけやから、正面スタンドでヤマゼントップが先頭に立った瞬間、場内からドーッと歓声が上がったんや。普通、1週目の正面スタンドに来たら歓声と拍手が上がるんやけど、みんな知っとるから「ヤマゼントップ、機嫌がええぞ!」って、明らかに異常に大きい歓声が上がった。
ごん:はいはいはい!
団長:ほんで「これは今日、ぶっちぎりで勝つんちゃうか!」とか、気の早いやつは「今日はタクシーで帰れるぞ!何かうまいもん食いにいかないかん!」とかいろいろ計画しよったら、1コーナーに向かってダーッと走っていったヤマゼントップが1コーナーを曲がれずに真っ直ぐ突っ走って、そのまま逸走して騎手が落馬して失格になりました。
ごん:あっはっはっは!
団長:というレースが見られますが、残念ながら逸走シーンは映ってない。ただし、杉本アナウンサーが実況でちゃんと言ってくれてます。「第1コーナーに向かいまして、ヤマゼントップが飛ばしました。ヤマゼントップが先頭であります。内々を通ってスイートダルゴ。ゼッケン番号が…おーっと!ヤマゼントップはやはりカーブを切れない!ヤマゼントップはカーブを切れない!落馬しました!」って。杉本さんも知ってるから、「やはり」って言ってます(笑)。
ごん:いやー、いいですねえ(笑)。
団長:すみません、競馬ファンしかわからないエンディングで今日は終わりますが、悪しからず。
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