麺通団のうどラヂテキスト版 編集 田尾 和俊

166

団長:「ラーメン屋だけど食べに行ったらうどん屋に行った回数にカウントしてもいい」ということでおなじみの「手打ちラーメンたか」ですが。

H谷:ま、団長だけのルールですけどね。

団長:それがここのところ1年以上店が開いてなくて、私はとても心配している。

ごん:団長お気に入りのラーメン屋ですからね。

団長:初めて行ったのが忘れもしない、旧レオマワールドの開園前年の営業の帰りだったから、1990年。もう35年も前になるけど、あの自家製のねじれ縮れの細麺と田舎の中華そば系のスープが衝撃的にうまくて。

H谷:あれは唯一無二ですからね。

団長:そうなんよ。当時、俺の好みのラーメン第1位は三宅病院の前に出てた屋台の「三宅ラーメン」やったんやけど、それを抜いたんや。ほんで辛抱たまらんで、その数日後にすぐに麺通団の重鎮のS水さんを無理やり誘って、昼食に高松からわざわざ車で40分ぐらいかけてまた行ってラーメン食って大満足で車で帰ってたら、車内でかけてた西日本放送ラジオのお昼の生ワイドでメインアナウンサーのK谷さんが「今日は田尾さんがまだスタジオに来てなくて。どうしたんだろう」って。

ごん:ラジオの生出演をラーメンですっぽかしたんですか!

団長:遠い昔の“よき昭和”出来事やけど(笑)、あれが私の長い「手打ちラーメンたか人生」の中のナンバーワンエピソード。で、ナンバーツーエピソードがこれかなあと。

モロコの奇跡

団長:こないだ、『インタレスト』の締切で学生らと編集作業しよった時に、「みんなで昼飯に行くか」ということになってね。それで学生数人と一緒に、「手打ちラーメンたか」に行ってきました。

ごん:うどんじゃなくて?

団長:いや、山越に行ったら行列が長すぎたんで、急遽、あの周辺で変更して。

H谷:やっぱり(笑)。

団長:数年ぶりに行ったんよ。そしたら、店に入ったらおばちゃんもまさか俺が来るとは思ってないからしばらくこっちをじーっと見て、「あら!田尾さんやないの!」いうてびっくりして。ほんで「お姉さん元気にしとったんなー」「誰がお姉さんな。もうおばあさんやがな」「僕、こないだ100超えました」「ほな私、200超えたんやろか」などといういつものやり取りがあって、ラーメンを6人分頼んだら、ラーメンしか頼んでないのに「こんなん作ったんや、こんなんも作ったんや」いうて次々に漬物を出してくれて、それがまたいちいちうまいんだ。

ごん:いいですねえ。

団長:何やったっけ、ワラビでなくてゼンマイでなくて、ワラビ、ゼンマイ、もう一コ何や?あ、イタドリ。

ごん:その並びでもう一コがイタドリ?

団長:山菜トリオやないか。そのイタドリの漬物みたいなやつが、これが食感抜群でめちゃめちゃうまいんだ。ほんでそれをつまみながらふっと後ろを見たら、大きな水槽が3つあって、水がむちゃくちゃ緑色の、バスクリンでもちょっと濃すぎるぞいうぐらいの緑色の水なんやけど、時々魚が見えるんや。

H谷:はははは(笑)。

団長:中に巨大な金魚が生息しとってな、そいつが手前のガラスに近づいてきた時だけ見えるという。

ごん:わかりますわかります(笑)。

団長:でね、そのうちの1つの水槽に、黒っぽい10センチぐらいの細長い魚が時々、金魚の間からガラス面に近づいてきたら見えるんや。一瞬「モロコかな?」と思って、おばちゃんに「これ、モロコが入っとん?」って聞いたら「モロコ入っとる」って言うから、「そこら辺で取ってきたん?」って聞いたら、そこからもう涙なくしては語れない物語が始まったんや。

ごん:ちょっと待ってちょっと待って!今の話の流れから、「涙なくして語れん」いう展開が全く想像できんのですけど(笑)。

団長:これは想像力がかなり試されるというか、絶対思いつかん物語や。

ごん:聞きましょう。

団長:普通に考えたら、モロコなんか魚屋で売ってないんやから、その辺の池か川か用水路ですくってきたと思うでないか。

ごん:思いますね。

団長:するとね、「いや、違うんや」って。確かにモロコは近所の池や用水路におって、近所のおっちゃんが毎年それを釣ったりすくったりしてるらしいんやけど。

ごん:ほうほう。

団長:ほんだらこないだ、おっちゃんがさっき獲ったばかりのモロコを店に持って来て、「揚げてくれ」って言うたらしい。

ごん:食べるんですか。

団長:うん。揚げたらワカサギの天ぷらみたいになって、それなりにうまいんだって。ほんだら、「手打ちラーメンたか」はおばちゃんが2人おるんやけど、そのうちの1人のおばちゃんが「はいはい」言いながらモロコを2匹ずつ持って、天ぷらのコロモをベターッと付けて油に入れ始めたら、それを見たもう一人のおばちゃんが「なんしょんな!かわいそうや!」言うて、全身にコロモを付けられて今まさに油に入ろうとしとる2匹のモロコを奪い取って。

ごん:ほうほう!

団長:そいつを水道の水でジャーッと洗ってコロモを全部除けて水槽に入れたやつが、今、そこで泳ぎよるって。

ごん:あっはっは!

団長:あと、まだコロモを付けられてなかったモロコ数匹と合わせて今、水槽の中に5~6匹入っとるらしいんやけど、コロモまみれだったやつも元気にしとるらしい。何か、「モロコのコロモ」で回文になってるけど(笑)。

H谷:はははは(笑)。

ごん:てゆうかそれ、どこが「涙なくして」なの?

団長:奇跡やないか。もう一人のおばちゃんが気がつくのが遅かったら、その水槽の中のモロコ、全部天ぷらになってるんやぞ。そのうちの2匹は、あと0.5秒遅かったら天ぷらや。

ごん:そらそうですわな。おっちゃんは天ぷらにして食べたいから持って来たわけで。

団長:その0.5秒で救われた2匹の気持ちになってみ?自分の前に何匹か、すでにコロモ付けられて油に入って揚がりよる。ほんでいよいよ次はそいつらの番や。「あー、もう俺、こんなとこで終わるんかー」って思いながらも、「しゃーない、これが俺の人生やったんや。いや、魚生か。まあどっちでもええわ」みたいな感じであきらめてね、「もう煮るなり焼くなり好きなようにしてくれ」って。

ごん:揚げられるんですけどね。

H谷:はははは(笑)。

団長:ほんでいよいよ油に投入…と思った瞬間、もう一人のおばちゃんに突然つかまれて、「えー?どこ行くん?」とか思う間もなく、上からジャーって水を浴びせられてコロモを取られて。

ごん:まさに神の手がやってきて。

団長:ほんで水槽の中に入れられて、「え?俺、助かったんか?」とか思いながらチラッと横目で見たら、向こうで天ぷらになっとるうちの嫁さん。どうよこれ!涙なくして語れるかっちゅうよなもんや。

ごん:ま、嫁さんかどうかというところに大きな問題がありますけどね。

団長:そこからもう毎日毎日、「俺らだけ助かって、これは喜んでいいのか?」という葛藤の日々や。

ごん:けどそれ、あれですよね。葛藤の日々を送りながらどんどん大きくなった頃にすくい上げられて、ジュッと揚げられて「やっぱこのぐらいの大きさでないと」みたいなことになるかもしれんですよ。

H谷:はははは(笑)。

団長:ま、などという話で盛り上がってたら、学生が「田尾先生と一緒にどっか行ったら必ず何かがありますね」「いつも何かネタの神が降りてきますね」って。

ごん:あっはっはっは!

団長:そやから、「ええか?取材というのはこういうことなんだ。常日頃からよいコミュニケーションを取っていたら、拾えないネタも拾えるようになるんだ」という、教育的なラーメンでした、と。

ごん:そうかあ?

H谷:ははははは(笑)。

バックナンバー

注目!CONTENTS