麺通団のうどラヂテキスト版 編集 田尾 和俊

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団長:これまで麺通団は数々のうどん屋の大将ネタを世に出してきましたが。

ごん:大将は望んでいなかったかもしれませんけどね(笑)。

団長:その中から今回、特に記憶に残る作品を一つ紹介することになりました。

ごん:「作品」って言っちゃいましたね。

団長:ノンフィクションのドキュメンタリーに、ちょっと演出が入ってるだけや(笑)。

「おか泉」大将の大サービス

団長:こないだ。

ごん:はいこないだ。

団長:遅い時間に夫婦で「おか泉」に行ってきたんだ。

ごん:「おか泉」は夜ご飯でも満足度が高いですからね。

団長:最初は「高松近辺でどこかに何か食べに行こう」という話だったんやけど。まあ、いつも行っている4つか5つぐらいの選択肢の中で。焼肉とか…

ごん:「○恵」ですね。

団長:パスタとか。

ごん:「PコロGG」ですね。

団長:あるいはまあ、寿司ね。

ごん:回る的な(笑)。

団長:もちろん、我が家の外食寿司はローリングスッシー。

H谷:はははは(笑)。

団長:あとは中華料理とか。ま、餃子のおいしい中華料理屋。

ごん:あっはっは!餃子を1日何十万個も作ってる中華専門店(笑)。

団長:けど「どれも今日はちょっと違うなあ」とか言いよって、ふと「おか泉、まだ開いとるかなあ」って思った瞬間、全身が「おか泉」の口になったんよ。

ごん:なりますなります。

団長:ほんでな、夜の7時ぐらいに高松を出たんや。店が何時までやってるのかうろ覚えで、8時は閉店だったのかオーダーストップだったのか、もし8時閉店で7時半にオーダーストップだったら7時出発はちょっと危険を伴う時間やけど。

ごん:坂出で7時半過ぎたら、なかなかリカバリーが効かないですからね。

団長:けど「まあとりあえず行こう」言うて、高速に乗って坂出で下りて、7時半をちょっと過ぎた頃に「おか泉」に着いたんや。そしたら「8時15分にオーダーストップで、8時半に閉店」だった。

ごん:何とかセーフだったと。

団長:はいな。で、店に入りますと、大将が正面のガラスの中でうどんを打っていらっしゃいまして。

ごん:ほうほう。

団長:平日のかなり遅い時間やから並ぶことなく席に案内されて、まあ夜やからあんまりヘビーなものは食べられんということで、H谷川君がいつも食べているというぶっかけ天ぷらを2つ注文して。

ごん:エビ天が1本だけのやつですね。

団長:あと、ばら寿司とおでん2本取って。

H谷:どこが「よけ食えん」ですか!

団長:それで、とりあえず食べてました。では、ここからの状況を説明するね。

ごん:はいはい。

団長:私は、「おか泉」の大将がうどんを打っている方向を向いて、テーブル席に着いています。

H谷:壁を背中にした席ですね。

団長:そうです。そのうち食べ終わったお客さんがパラパラと帰り始めて客がだいぶ減ってきた頃、どうも県外客らしいご夫婦が小学校低学年ぐらいの子供さん2人と一緒に席を立ってレジの方に歩いて行ったんやけど、親御さんがレジに並んでいる時に子供さん2人が列を離れて、大将がうどんを打っちょるガラスの真ん前に行って、そこに食いついてじーーっと大将の作業を見始めたんだ。

ごん:まあ珍しいというか、おもしろかったんでしょうね。

団長:俺ら夫婦でその子供を見ながら「あの子供2人とも、うどん屋になるぞ」って言うたぐらい、ものすごい興味でジーーーっと見よんだ。

ごん:ほうほう。

団長:するとね、サービス精神旺盛な大将がいつもよりちょっとオーバーアクションになってきて。

ごん:あっはっは! 

団長:すかし打ちもいつもより1.7倍ぐらいぐらいの音を出して、ターン!ターン!言わせながら。

ごん:あっはっはっは!板に叩きつける音も大きめで(笑)。

団長:うどんを延ばすのもいつもよりリズミカルで、スピードもいつもより速めで生地をチャッチャッと回しながら。

ごん:いつもよりショーアップされて(笑)。

団長:それを畳んで麺切り台のところに置くのも、何かちょっとこう、腰と肩が入ってね。

ごん:あっはっは!

団長:包丁の持ち方も何となく「ステージの上かな」という感じの持ち方をして、タンタンタンタンタンタンタンタン!そこでちょっと子供の方を見て、タンタンタンタンタンタン! 

ごん:あっはっはっは!

団長:ほんで切り終えたらそいつを持ち上げて打ち粉をサッサッと払って。あ、いつもよりちょっと高めに持ち上げてね(笑)。

ごん:あっはっは!

団長:ほんで、出来上がった麺線を向かって右のちょっと死角になったところに置いたか誰かに渡したかして、作業が完了したわけや。

ごん:いやー、子供さんも大満足だったでしょうね(笑)。

団長:そしたらね、まだ子供がガラスの前にじーーっと食いついとんや。すると、それを見た大将が次の団子を持ってきて。

ごん:えー?

H谷:閉店間際ですよね。

団長:間もなくオーダーストップの時間やのに、また新たな団子を延ばし始めて、麺棒にぐるっと巻いてターンターンターン!と打ち始めて。ちょっとオーバーアクションで。

ごん:あっはっはっは!

団長:それをまた畳んで麺切り台の上に置いて、タンタンタンタンタンタンタンタン!チラッと子供の方を見て、またタンタンタンタンタンタンタンタン!と、何か見得を切ってるみたいな勢いでうどんを切って(笑)。

H谷:はいはいはい。

団長:それをまた子供が2人、じーーーっと見よんや。ほんで麺を切り終わったらそいつを持ち上げて。

ごん:いつもよりちょっと高めに(笑)。

団長:さっきよりさらに高めに(笑)。ほんで打ち粉をサーッと落として、そいつをシュッと死角に置いて、2回目のパフォーマンスが終了した。

H谷:大サービスですね。

団長:それでもまだ子供が食いついたままやったんやけど、さすがにもう閉店が近いから終わりやと思いよったら、そこにお父さんがやって来た。

ごん:「もう帰るぞ」言うて呼びに来た。

団長:たぶん呼びに来たんやと思うけど、あまりにも自分の子供が必死で見よるもんやから、お父さんも一緒になってじーっと見始めたんや。

ごん:あらら。

団長:すると大将、次の団子を持ってきてまた伸ばし始めて。

ごん:あっはっはっは!

H谷:もう閉店ですよね(笑)。

団長:ほんまに、俺もさすがに心配したわ。ほんだら大将がそいつを打ち終えて麺線にした後、ようやくガラスの向こうから表に出てきて、そのお客さんに「どちらからいらっしゃったんですか?」みたいな感じで話しかけて。聞こえてきた内容によると、そのご家族は北九州だったか、どこか遠方から来られていたみたいで、大将が「あ、あ、またよかったら」とか言うて、とりあえずそのご家族が帰ったんや。

ごん:ようやく(笑)。

H谷:閉店前に団子3つも打って(笑)。

団長:その後しばらくして我々が食べ終わっ頃に、大将がこっちに来て、「あ、田尾さん、今日はどうも、遅い時間に来ていただいて」とか言うから…

ごん:今、団長が「おか泉」の大将の真似をしていますけど、知っている方はなかなか笑えますよ(笑)。

団長:ありがとうございます(笑)。で、俺が「大将、子供さんが食いついてましたやん」って言うたら、「いやね、子供さんが真剣にご覧になってたんで、こちらも子供さん、失望させんようにと思って」って言うから「さすが大将、いつもサービス精神旺盛ですねえ」って言うたら、大将が横からビニール袋を出してきて、「あの、よかったらこれを」って。見たら、さっきの生麺やないかい!

ごん:あっはっはっは!

H谷:やっぱり打ち過ぎて余ったんや!(笑)

団長:ワタクシその日の晩、我が家で3食丸々2日分ぐらいの「おか泉の生麺」を持って帰りました(笑)。

ごん:いやー、皆さん幸せになりましたね(笑)。

団長:とても温かい大将の一面を目の当たりにして全員がハッピーになったという、「おか泉」の閉店間際の一幕でした(笑)。

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