編集 田尾 和俊
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団長:H谷川君はすごいね。
H谷:何ですか急に。
団長:いろいろ話をしよったらちょいちょい出てくるけど、もう30年も前の「ゲリラうどん通ごっこ」とか『恐るべきさぬきうどん』に書いたことを今も覚えとるやん。
H谷:「ゲリ通」も『恐るべき』もめちゃめちゃ読み込んでますからね。あれ、普通のうどん屋紹介じゃないじゃないですか。
ごん:確かに普通じゃない(笑)。
H谷:それで「何じゃこりゃ」と思って実際に行ってみたら、本に書いてある通りのことが次々に目の前に現れるんですよ。それでむちゃくちゃおもしろくなってハマったんですけど、『うどラジ』とかで団長が昔の話をする時に、それがよみがえってきたりするんで。
ごん:作者にとっては神様みたいな読者ですね。
H谷:とにかくあれが僕の人生を狂わせたんです。
ごん:悪魔みたいな作者(笑)。
団長:何でやねん。というわけで、H谷川君が「ゲリ通」を思い起こして喜んだ回をゆる~くプレイバック。
山神
団長:こないだ、久しぶりに「山神」に行ってまいりました。
H谷:団長から「山神」が出るのは珍しいですね。
団長:もう何年ぶりやったか、うどん食べに行こうと思ったらふと「山神」が浮かんできて、店が開いてすぐぐらいの時間に行ったんよ。そしたら「ちょっと待ってくださいね」って言われて。たぶん最初のうどんがまだゆで上がってなかったんやろと思うけど、この「開店時間に店は開けたけど、うどんはまだゆで上がってない」という緩さが、讃岐うどんの世界の実に心地いいシーンや。
H谷:はははは(笑)。
団長:ほんで、とりあえず藤原屋の天ぷらを2つ取って、食べながら待っちょったんよ。
H谷:うどんが来たらまた取るのに?
ごん:あっはっは!
団長:ま、挨拶代わりの天ぷら2つ。「かけつけ2個」の「ウェルカム天ぷら」や。ほんでゲソ天とごぼう天を取って食べてたら、常連っぽいおっちゃんが一人入ってきて、壁の貼り紙を見て「そばがもうできよんか」言うたら奥から女将さんの「今日からしよるでー」いうて声がして、そのおっちゃんが頼んだのは「そばの大」。ほんで俺は何か「山神は醤油うどん」みたいな印象があったので、「醤油うどん」。
H谷:確か「ゲリ通」でも「山神」は「醤油うどん」の話を書かれてましたよね。
団長:よう覚えとるなあ。俺が初めて「山神」を紹介されたのは、香川県内のある有名企業の専務に「うまいうどんがあるんだよ」言われて。
ごん:そんな口調で(笑)。
H谷:文章もそんな感じでしたよね(笑)。
団長:「田尾はいつ空いてるんだ」言われて。
ごん:あっはっは!
団長:俺が高松青年会議所にペーペーで入っていた時にその人は青年会議所の偉い方で、もう頭が上がらないというか、頼まれたら断れない方だったんで「はい!すぐ行きます!」言うて、ほんで車を飛ばして時間通りに行ったら20分ぐらい待たされて。
ごん:よくある話で(笑)。
団長:そこから車に乗せられて連れて行かれたのが「山神」だったんだ。「ここは醤油うどんがうまいんだよ」って(笑)。
ごん:はははは(笑)。
団長:「奥さんがきれいなんだ」とか言うんだ(笑)。
H谷:「ゲリラうどん通ごっこ」の文章そのままです(笑)。でも本の文章からは口調がよくわからなかったんですけど、今聞いたらすごいイメージが伝わってきてむちゃくちゃおもろいですね(笑)。
団長:店に入ったらその専務が全部段取りしてくれるんだ。ほんで確かにきれいな奥さんが出てこられて「何にしますか?」言うたら、専務が「しょうゆ大、2つだ」。
ごん:あっはっは!
H谷:それそれ!(笑)
団長:「三船敏郎がうどん注文したみたいな感じ」って本に書いたけど。
ごん:今の口調はまさに、三船敏郎です(笑)。
団長:そしたらしばらくして出てきた醤油うどんが、びっくりするみたいなブリブリの麺で。しかも女性が打ってるから余計にびっくりして、あの時の印象が強烈に残ってたから、久しぶりに行ってまた醤油うどんを頼んだわけだ。で、出てきたうどんにテーブルの上にあった醤油をチャチャッと掛けて、ネギ掛けてズッと食べたんやけど、うまいねー!
H谷:うまいですねえ。
団長:最初に食べた時より麺が細くなってる印象で、ギューンて伸びてくる感じはそんなにないんやけど、カタコシでもなくて、しなやかさが増してる。その食感を一言で言うと、「柳川」の麺に艶が出た感じなんや。
ごん:ん?
団長:「柳川」の麺は、ばあちゃんだと思いな。
ごん:あの、ちょっと待ってくださいよ。えーと、擬人化ですか?
団長:ばあちゃんや。
ごん:あっはっは!はいはい、ばあちゃんね。
団長:そして「山神」は、ねえさんだ。
ごん:あー、はいはい。
団長:その差。
ごん:ちょっとちょっと!
H谷:確かに見た感じはまあそんな感じですけど、もうちょっとわかるように(笑)。
団長:けど言わんとしていることはわかるだろ?「山神」と「柳川」は麺の太さや形状の方向性がよく似てるけど、「柳川」は田舎の製麺所麺で、「山神」はそれがちょっと洗練された感がある。けど、キレキレのおしゃれな都会麺ではない。
H谷:わかりますわかります。
団長:でね、「山神」の麺と「柳川」の麺を並べてみると、改めて、「やっぱり麺って人を表すところがあるなあ」と感じたわけです。「犬は飼い主に似る」というか「飼い主が犬に似る」みたいに、「麺は作り主に似る」みたいなね。
ごん:ま、犬が飼い主に似るのかどうかは知りませんけど(笑)、そういうことならね。
団長:ほんで結局、天ぷら2つ食った後で醤油うどん1玉食って、辛抱できんで「すんませーん、かけください」って。ほんでかけに小エビのかきあげ天を乗せまして、かけうどんにはご飯ものがピッタリなので、おにぎりを1つ。
H谷:行きますねえ(笑)。
団長:ほんで大満足で帰ったんやけど、ふと「かけと醤油」だけでなくて「かけとぶっかけ」の組み合わせもアリなんちゃうか?と思っってね、数日後にまた行ったんや。
H谷:完全にハマってしまってるじゃないですか。
団長:そうなんよ。ほんでこないだの水曜日。
H谷:え?
団長:「え?」って、まだ何も言うてないが。こないだの水曜日、午後から授業だったんで、午前中に東讃の方で一件取材して、東讃でうどん食べようかとも思ったんやけど全身が「山神のかけとぶっかけ」の口になって、断腸の思いで東讃のうどんを諦めて高速に乗って善通寺インターで下りて、下道を通って「山神」に行く道を一回間違って知らん池に出て…
H谷:そこまでハマってて道間違いますか?
団長:いつもと逆の道から行ったから、山に向かう道を1本間違ったんや。ほんでもう一回その辺を回ってようやく「山神」を見つけて行ったら、定休日やった。
ごん:はははは(笑)。
H谷:僕は団長が最初に「こないだの水曜日」言うた時点でオチがわかってました(笑)。
ごん:さすが「歩く定休日辞典」(笑)。
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