麺通団のうどラヂテキスト版 編集 田尾 和俊

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団長:麺通団は「うどんで遊ぶ」というのが基本コンセプトやから、「讃岐うどんの歴史や文化や技術は語らない」「讃岐うどんに学術的アプローチはしない」というスタンスで活動を始めたんやけど、それがうまいこと当たって「讃岐うどん巡りブーム」が起こった後、だんだん讃岐うどんの歴史や文化や技術や学術的アプローチに言及するようになってきてしまって、実に嘆かわしい。

ごん:言及してるのはほとんど団長ですけどね。

団長:あふれる知性が当初のコンセプトをどうしても抑えきれんでなあ。

ごん:そこは同意しかねますけどね(笑)。

H谷:けどまあ、あれだけうどん屋を回っていろんな体験をしたり人の話を聞いたりしてたら、どうしてもいろんな情報が蓄積されてきますからね。

団長:しかも、ボーッと食べ歩くんでなくて、その体験を原稿にしたりテレビやラジオでしゃべったりせないかんから、メチャメチャ観察したり考えたりしてきたからなあ。だから、麺の“コシ”一つでも「コシがあっておいしい」みたいな魂の抜けたコメントは書けんから、「伸びるコシ」とか「中から押し返してくるコシ」とか「固いコシ」とかいろんな表現をしてきたし。

H谷:飯山の「なかむら」の麺には「軟体腰」というネーミングもして細分化してきましたからね。

団長:などという観察力が垣間見える放送も、たまにやってました。

「田村」の“薫るツルツル麺”

団長:田村に行ってきました。

ごん:綾川町の。

団長:俺の中ではいつまでも「綾南の田村」や。

H谷:そっちの方がしっくりきますね。

団長:ほんまに、平成の大合併はかつての小区分の地域のイメージと情緒を土の中に埋めてしもたなあ。「谷川米穀店」は「琴南の谷川米穀店」だろ? 「まんのう町の谷川米穀店」言われたら、谷川が支店出したんかと思うわ。

ごん:ま、そういうのも僕らの世代までですよ。今の若い世代は「綾川町の田村」や「まんのう町の谷川米穀店」が出発点ですから、全然違和感持ってないと思いますよ。

団長:そうなんよなあ。まあしょうがないか。遡ったら昭和30年前後にも「昭和の大合併」があったし、もっと遡ったら「明治の大合併」もあったから、我々が懐かしがってる市町もその前の世代の人にとってみたら「昔のイメージがなくなる」いうて嘆かれてたんやろな。

ごん:そういうもんでしょうね。

団長:というわけでその田村に行ったら、創業以来! 最高に!

ごん:ほう。

団長:ツルツルした麺が出ていました。

H谷:えー?

団長:田村の麺は、いわゆるゴワゴワではないけど、すごく素朴な田舎麺の代表なんだ。

ごん:はいはい。

団長:手作り系の田舎麺は、基本的に表面がツルツルでなくてザラザラ、立つようなザラザラでなくて、ダシを連れてくるような細かい引っかかりのあるみたいな…

ガモ:わかりますわかります。

団長:その田村の麺が、洗練系とまでは言わんけれども、表面がツルツルしとったんや。何やろ?

H谷:粉が変わったとか。

団長:今日もゲストにガモムスが来とりますが、どうですか、プロの目から見て。

ガモ:そんな難しいことをいきなり振らんといてください。けどまあ、ツルツルした麺いうたら、まあ一般的には添加デンプンしたらツルツルすると言われていますけど…田村さんですから。

団長:そう。大量生産のうどんとか冷凍うどんとか、工場生産系のうどんはデンプンを入れてツルツルさせとんのが結構あるみたいやけど、田村はそんなことせんやろ? なのに、田村がツルツルになっとって、どしたんやと思って食べたんよ。そしたら、断面の方には手作り感あふれるザラつきが残っとる! しかも何と、食べたら中から小麦の香りが立ちのぼってくる。なのに断面でない方の表面がツルツルなんや。俺、あんな麺食べたの初めてや。

ごん:ツルツルなのに、「さすが田村!」みたいな。

団長:ほんでいつものようにかけの大と日本で2番目に小さいちくわ天を2つ取って食べて、「うわっ! これすごいわ!」と思って、辛抱できんでしょうゆの小を追加した。

H谷:朝から何ぼ食べてるんですか!

団長:というわけで、田村は今、「ツルツル麺のうまいやつ」という新たな境地を開いとるかもしれんな、という朝だったという話。

ごん:でも、その日だけだったかもしれんですよね。

団長:確かに。マニュアルのレシピで大量生産しよる店はそうではないかもしれんけど、手作りしよる店はうどんの出来が日々変わるからな。

ごん:しかしそれは大注目ですね。

団長:ほんでな、食べ終わって自動販売機がズラッと並んどる駐車スペースの所に帰ったら、横に止まっとったでっかいダンプが今まさに出ようとしとったんやけど、運転席からおっちゃんが身を乗り出してこっち見て、「おう、田尾さんやないか」いうて。

ごん:よくある話で(笑)。

団長:俺、見たこともない人やったんやけど、「あ、どうも」言うたら、そのおっちゃんが「わし、あんたんとこの嫁さんとの、中学校の時に同級生やったんや」って。

ごん:あっはっは!

団長:そんなこと急に言われて、俺、とっさに気の利いたリアクションが思いつかんで「そうですか」しか言えんかったが。

ごん:けどそれは私は、ダンプのおっちゃんの方をフォローしますよ。そんなおいしいネタ持っとったら、そら声かけるって(笑)。

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