麺通団のうどラヂテキスト版 編集 田尾 和俊

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ごん:最近団長、海外旅行にあんまり行ってないですよね。

団長:もう10年以上行ってない。

ごん:それまでは仕事と称して結構行ってましたのに。

団長:仕事や仕事! 2002年までのタウン情報時代は2年に1回ペースでハワイとかに社員旅行に行っとったけど、あれは編集長~社長として、大事な社員のリフレッシュと研鑽のための行事やから「仕事」の一環や。

ごん:あの頃の社員は私もよく知ってますけど、社員旅行で「研鑽」するようなメンバーが見当たりません。

団長:ま、俺も見当たらんかったけど(笑)、2003年からハワイやらラスベガスやら、イタリアやらスペインやらに行っきょったんは、大学で観光やマーケティングを教えるための研究の一環やから、明らかに「仕事」やんか。しかも全部、自費で行ったんぞ。

ごん:研究なら研究費とかで行けたんじゃないですか?

団長:研究言うても、いろんなものを見たり食べたり写真撮ったり話を聞いたりするやん。まあ、研究や研修や視察みたいなのはたいていそういうものやから、仕事と観光の線引きはそうそう厳密に明確にできるものではないんや。

ごん:まあ仕事で出張に行っても、みんな24時間仕事してるわけじゃないですからね。

団長:だろ? すると、悪意を持ったやつに「それは観光じゃないのか?」とか絡まれる恐れが常にあって、そういう懸念を少なからず持ったまま生きるのは実にうっとうしい。俺は「そんな重箱の隅を突くような悪意にいちいち弁明するためにエネルギーを使うぐらいなら、自腹を切る」というライフスタイルだから、全部自費で行ったんや。

ごん:なるほど。さすが、誠実をモットーとする団長の素晴らしいお言葉。危うく言いくるめられそうになりました。

団長:全然信用してないやんか!

団長の韓国「カルグクス」体験

団長:こないだ。

ごん:はいこないだ。

団長:大学の行事で韓国に行って来たんだ。

ごん:あらま。

団長:韓国に韓南(ハンナム)大学校いうのがあって、実は四国学院大学はその韓南大学校と30年来の姉妹提携を結んでおりまして、その30周年を迎えて韓南大学校で式典をするということで、四国学院から先生や職員10人ぐらいが韓国に行ったわけだ。

ごん:なるほど、これは仕事っぽいですね。

団長:100%仕事じゃ!

ごん:………

団長:87%仕事です。ほんで向こうに行ったら、まず韓南大学校の先生や職員や日本語科の学生なんかに挨拶して回ったんやけど、俺は四国学院でまだ5年ぐらいやから下っ端のペーペーで、ベテランのH先生の後ろに付いて行くだけで。

ごん:まあ初めてですからおとなしくね。

団長:H先生はもう何十年も韓南大学校と交流しとるから、会う人会う人に「H先生、ようこそ!」とか「お久しぶりです!」とか大歓迎されよる。その横で俺はじーっと待っとる。

ごん:秘書みたいにね。

団長:するとね、H先生が会う人会う人に挨拶した後、いちいち俺のことを「こちら、田尾先生。うどんのハカセ」いうて説明するんよ。

ごん:あっはっは! 確かにうどんのハカセですからね(笑)。

団長:向こうの学長とかエライ人に会うても、「こちら、田尾先生。うどんのハカセ」。向こうの学生に歓迎されても、「こちら、田尾先生。うどんのハカセ」。

ごん:あっはっは!

団長:するとね、俺は初めてのペーペーなのに、向こうの先生方や職員さんの間で「うどんの先生が来た」という認識が薄く広がっとったらしいんや。

ごん:ま、当たらずとも遠からずですね。

団長:けど俺は本来、情報発信屋でマーケティング屋でビジネスマンで、うどんは情報発信ビジネスとしていろいろ弾を撃ってきた中の一つやから、そこだけが全てみたいに「うどんのハカセ」言われるのは微妙に不本意やったんやけど、実はそれがちょっと功を奏しましてですね。

ごん:ほうほう。

団長:2日目にH先生とその懇意な先生と数人で「昼食に行きましょう」ということになったんやけど、向こうの先生が「田尾先生もいるので、うどんを食べに行こう」ということになったんや。

ごん:来ましたね!

団長:ほんで聞いたら、「韓国でも讃岐うどんみたいなうどんがある」って言うんよ。それも、「百済の時代から受け継がれている韓国のうどんがある」と。

ごん:「空海が大陸から讃岐うどんの原型を持って帰った」いうぐらいですから、その通り道の韓国にもうどん文化があっておかしくないですね。

団長:空海は西暦800年頃の平安時代の人やけど、百済は4世紀前半から660年までやから、百済の方が200年も古い。百済から日本に仏教が伝わったのが538年って習ったろ? 「百済から、仏教伝わりご参拝(538)」いうて覚えたやろ。

ごん:それ、JACKさんは何て覚えてましたっけ。

団長:「ごみや(538)になった仏様」。

ごん:あっはっは!

団長:で、その百済の時代から受け継がれているであろう、「カルグクス」っていううどんが韓国にあるんだって。しかもそれは珍しいうどんではなくて、この辺、韓国の大田(テジョン)ではあちこちに「カルグクス」を出すうどん店があるって。で、その中でもお勧めの人気の店に連れて行かれたんだ。

ごん:ほうほう。

団長:店に入ったら、70~80人は入れるぐらいの大広間みたいなところに低いテーブルがいっぱい並んでて、靴を脱いで上がってテーブルを囲んで座るというスタイルの店や。ただ、畳でなくて板の間で、そこに薄い座布団があるだけやから、座ったら足が痛い痛い。けど、周りを見たらみんなその薄い座布団を1枚ずつ敷いて座ってるから、俺一人だけ5枚とか取れんでないか。

ごん:あっはっは! どうせなら10枚ぐらい取ってね。しょうもないこと言うたら「3枚取っちゃえ」みたいな(笑)。

団長:昼前やったけど、すでに客が50人ぐらい入っとったわ。聞いたらサラリーマンとかOLが大半だったらしいんやけど、ネクタイ締めてるやつがほとんどおれへんかった。ほんで席に案内されて、5~6人でテーブルを囲んで座ったら、テーブルの上にコンロがあって、コンロの上に鉄鍋がかかっとる。中を見たらダシが入ってて、そこにすでにネギとか白菜とかいろんな野菜が入ってて、底の方にはアサリとか魚介類まで入ってる。それが下から熱せられてだんだん温度が上がってきよるわけや。

ごん:「魚介鍋」ですね。

団長:そう。で、その横に大きな銀色のお皿があって、わかりやすく言うと、一鶴のキャベツのお皿を8倍ぐらいにしたぐらいの大きい銀色のお皿があって。

ごん:行ったことのない人は全くわからんと思いますけど、今、リアルに原寸で姿が浮かびました(笑)。

団長:その大きな銀のお皿に、生麺を山盛りに盛ってある。まだ表面に小麦粉が付いた、茹でる前の生麺の麺線やけど、緑色なんや。聞いたらヨモギを練り込んであると。こいつがおそらく「カルグクス」だ。

ごん:ほう。

団長:で、その山盛りの「カルグクス」の麺が自らの重さで潰れかけとるように見えたから、「これ、かなり柔らかいんちゃうか?」と思ってね、それでH先生や韓国の先生が話をしよる時に俺だけちょっと箸で麺線をつまんで、「うわ、やっぱり柔らかいわ」とか確認しよったんや。

ごん:さすが「うどんのハカセ」(笑)。

団長:それで2回か3回か麺をつまんで柔らかさを確かめよったらふっと視線を感じて、顔をみんなの方に向けたら、韓国の先生が全員こっちをじーっと見よった(笑)。

ごん:あっはっは! みんな納得ですよ。うどんのハカセ、納得の行動!

団長:チェックしよんのがバレたら仕方がないから、H先生に「これ、讃岐うどんよりかなり柔らかいですよ」いうて報告したら、H先生が向こうの先生方に韓国語で「チョト、ヤワラカスミダ」とか伝えてくれたんやけど。

ごん:絶対違いますけどね。

団長:で、しばらくしてダシが沸いてきたら店のお姉さんが来て、麺の小麦粉をサッと落として、けどまだ結構粉が付いた状態でそのまま鉄鍋のダシの中に入れたんや。

ごん:打ち込みうどんみたいなことですか。

団長:そう。麺は「塩を使わずに練ってある」って言いよったから、こっちの打ち込みの麺と同じや。

ごん:まあ、打ち込みの麺に塩を入れたら鍋物の味が塩辛くなって食えたもんじゃないですからね。

団長:麺はこっちの打ち込みよりかなり長い麺で、それをダシと野菜と魚介の入ってグラグラいいよる鍋にザッと入れたんやけど、そこでちょっと心配なことが起こった。

ごん:何でしょう。

団長:鍋がそんなに大きくないから、麺を入れたら温度がシューッと下がってしまうんだ。「おいおい、こんな柔らかい麺なのに温度が下がってしもてどうするん」と。生麺を入れたら普通、熱湯でも10分近く茹でると思うわな。それが一旦温度が下がったら噴き上がるまでにまた時間がかかって、次に沸き上がってきた時には、うどん溶けとるんちゃうかと。

H谷:ちょっとまずいことになりましたね。

団長:これ、とろんとろんになった麺を食わされてもこの状況で「おいしくない」とも言えず、「まいったなあ」と思いよったら、3分か4分で「もう食べろ」って言うんだ。「いや、それはさすがに早いやろ」と思ったんやけど、それを合図に韓国の先生が先に食べ始めたもんやから、しょうがなく俺も一緒に箸で鍋の中の麺を、絶対プツプツ切れると思いながらそーっと持ち上げたんだ。ほんだら、切れんと持ち上がってきた。

H谷:ほー。

団長:ほんでそのままズルッといったら、これがムチャクチャうまい!

ごん:味付けは何なんですか?

団長:ダシの味だけ。たぶん醤油ベースで、けど野菜から魚介類からダシが一杯出とるしから味がしっかり付いてて、旨味もたっぷり入ったダシ。ひょっとしたら最初のダシに私の好きな「ダシの素」とかがダーンと入ってるんちゃうか? と思うぐらいうまかった(笑)。

H谷:麺はどうなんですか?

団長:飯山の「なかむら」の麺をちょっと太くして、もうちょっと柔らかくした感じかな。それが、もともと柔らかいのを3~4分とは言え食べられる状態にまで茹でてあるのに、腰があるんよ。これはびっくりした。柔らかいコシがあって、持ち上げてもプツプツ切れんのよ。しかも、エッジがあって、エッジの先が“ふるふる”しとる。

H谷:おー!

団長:しかも、明らかに手切りやから太さにバラツキがあって、ねじれと縮れもあって、食べてて口の中で“おもしろい”。

H谷:ちょっと待ってくださいよ。その特徴は、以前某店の大将が作り出して団長が変なネーミングを付けて世に出られなくなった、あの“幻の麺”みたいじゃないですか。

団長:そのエピソードの紹介の仕方は不本意やけど(笑)、さすがH谷川君。あのエッジの“ふるふる”は、訳あって詳しくは言えんけど(笑)、まさにあの時のそれや。

ごん:すると、粉に小麦粉以外にアレが入っているんじゃないですか?

団長:そうなんよ。聞いたら「粉は小麦粉だけしか使ってない」って言いよったけど、どう考えても「あれにはアレがちょっと入っている」と言わざるを得ないような“ふるふる”のエッジがあった。

ごん:「カルグクス」、恐るべしですね。

団長:ちなみにこれ、「清水屋」の大将に聞かれてええんか? あ、今日は「清水屋」の大将をゲストに迎えてお送りしていますが。

ごん:清水さんのこんな真剣なまなざし、初めて見ましたよ。メモまでしてましたからね。

清水:何でバレたん!

団長:そういうわけで、近々、「清水屋」で緑色の柔らかくて長くて“ふるふる”のエッジの付いたうどんが鍋で出てくるかもしれません(笑)。

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