麺通団のうどラヂテキスト版 編集 田尾 和俊

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団長:「マニアがウンチクを垂れようとして、いろいろ勝手な深読みをする」という場面を少なからず見聞きします。

ごん:何かありますね。他の人に知識でマウントとろうとしたりしてね。

団長:麺通団は謙虚だから、そんな深読みや想像をさも事実化のようにひけらかしたりはしないけど、時々危うい場面もあったりする(笑)。

H谷:「香の香」のダシとかね(笑)。

団長:改めて気をつけましょう。

「なかむら」の麺さばきの秘密

団長:こないだ「なかむら」に行ったら、セイロの上に玉がないという状態に出くわしたんやけど、しばらく待ってたら釜から上がってきてね。

ごん:まあ上がってきますわな。

団長:ほんでその麺を女将さんが流しの中の金たらいみたいなんに入れて、上から水をジャーッと出しながら洗い始めたんや。

ごん:はいはい。いつもの光景です。

団長:釜から上がって来たうどんを洗う時は、普通はシャバシャバシャバ! って勢いよく洗うやんか。

ごん:ぬめりを取らないかんですからね。

団長:そうそう。かなり強めに、俺ら素人が見たら「切れるんちゃうか?」と思うような洗い方をする店もいっぱいあるけど、麺がしっかりしとるから少々のことでは切れたりはせんやんか。

ごん:はいはい。

団長:ところが、見よったら「なかむら」の女将さん、釜から取ったうどんをたらいの中で、上から水を出しながらなでるようにやさしく洗いよんや。

H谷:「なかむら」の女将さんは基本、よそより柔らかめに洗いますからね。

団長:それがな、改めてよーく見よったら、ものすごくゆっくりなんよ。例えるならうどん作りの一番最初、小麦粉に塩水を入れながら混ぜていく時に、両手の指を広げて粉の山の両側から粉をかき上げながら混ぜていくやんか。

ごん:やりますね。

団長:あの動作をさらにスローモーションにしたような動きで、ゆっくりゆっくりと、たらいの中で麺を泳がせながら「それは何をしよん?」と思うぐらいゆっくりゆっくり洗いよんや。ほんで、しばらくしたらたらいの水をザーッと流して、たぶん水が温まるんやろな、それでまた上から水を入れて、またゆっくりゆっくり回して、もうもどかしいぐらいゆっくり水洗いをするんや。

H谷:ええええ。

団長:それを見よってな、俺は気がついたんよ。「なかむら」のあの軟体ゴシの飲み込める麺は、生地作りの段階で何か秘訣があるのは間違いない。さらに、おそらく茹でる時にも何かあの麺になる秘密があるんやろけど、さらにさらに、水洗いの時にも何か秘伝があるんではないかと。つまり、生地作りから茹で、水締めの行程ごとにそれぞれ秘伝があって、それられを全部足して初めて、あのどこにも真似のできない軟体ゴシが完成するんではないかと。

ごん:なるほど、これはなかむらの麺の本質に迫ったかもしれないと。

団長:そこで、俺は意を決して、女将さんに「何かえらいゆっくりと柔らかく洗うんですねえ」って言うたんや。そしたら女将さんが一言。

ごん:ついに秘伝を明かしたんですか!

団長:「寝不足やけんな」って。

H谷・ごん:あっはっはっはっは!

ごん:ちょっと待ってちょっと待って!(笑) それ、秘密のテクニックでも何でもなくて、単に寝不足で体の動きがスローモーなだけ!

H谷:すごいワザかと思ったのに!

清水屋:僕なんか、真似しようと思って構えてましたよ! 金だらい買いに行こかと思ったのに。

団長:えー、寝不足で水洗いしたら、ええのができるみたいです(笑)。

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