麺通団のうどラヂテキスト版 編集 田尾 和俊

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団長:イナリのうまいうどん屋がめっきり少なくなったなあ。

ごん:以前は「イナリのうまいうどん屋ベスト5」とか言うてましたやん。

団長:それが近年、味が変わったりメニューにイナリがなくなったり店ごとなくなったりして、もう「うどん屋の珠玉のイナリ」は絶滅危惧種状態や。

ごん:現時点でお気に入りはどこなんですか?

団長:今は「大円」やなあ。「大円」でうどんとイナリ食った後、さらにイナリを6つ買うて帰ったこともある。あと、「はなや食堂」のイナリも買うて帰るぐらいうまいけど、近年は開店してすぐ売り切れよるらしくて、昼行ったらいつもなくて、もう1年以上食べてない。

H谷:けど、僕らの間で「イナリ、イナリ」言うのは団長だけですけどね(笑)。

団長:そういうわけで、私がまだ「うどん屋のイナリ」を熱く語っていた頃の1本です。

イナリ大激論

団長:「はなや食堂」のイナリはうまいねえ。俺の中の「うどん屋のうまいイナリランキング」のトップ5の一角や。

ごん:あとはどこでしたっけ?

団長:「鶴丸」と「大円」と坂出の「三島」と観音寺の「柳川」。あと“レジェンド”で、閉店したけど錦町にあった「久保田」のイナリ。

H谷:「久保田」がレジェンドですか。

団長:例えるなら、『スターウォーズ』の「ジェダイの帰還」のエンディングでルークとレイアとハンソロとイウォークがデススターをやっつけてどんちゃん騒ぎしよる後ろに出てくるヨーダとオビワンケノービとアナキンみたいな存在やな。

H谷:よくわかりませんが(笑)。

ごん:ちなみにですね、僕ら団長の言う「うどん屋のイナリ」の善し悪しがよくわからないんですけど、そのトップ5って、何か共通の特徴はあるんですか?

団長:そこ、入ってええんか? スイッチ押したよ。

ごん:えーっ! そこスイッチだったんですか!

H谷:もう、何やってるんですかごんさん!

団長:しょうがないな。私が「正調・讃岐のうどん屋のイナリ」の真髄を教えておこう。まず、イナリは「アゲ」と「寿司飯」で構成されております。

ごん:知ってますよ。

団長:では「アゲ」から行くね。私の推すトップ5のイナリは、いずれもアゲの色が薄い、そしてアゲの厚さが薄い。要するに、アゲが必要以上に醤油色に炊き込まれてなくて、寿司飯に薄く張りついている。何なら、アゲが一部破れて寿司飯が露出しとるぐらいでもオッケー。例えて言うなら、「イタミ食堂」のオムライスの皮! あれだ!

H谷:どれですか!

ごん:ごく限られた人しかわかりませんがな!

団長:近年、雑誌やテレビで紹介されて「わー、かわいい」とか言いよる人気のオムライスがあるやん。

ごん:半熟みたいな卵を上に載せたやつですね。

団長:そうそう。チキンライスの上から卵がだらーっと被さってくるみたいなオムライス。あんなオムライスを素敵なオムライスだと思っているなら、君らにオムライスを語る資格はない!

ごん:いや、全く語ってないですけど。

団長:で、そういうアゲが薄い、真ん中から箸で切ったらアゲと寿司飯が一緒に切れるぐらいのイナリが、讃岐のうどん屋の「正調イナリ」として美しいと私は思うわけだ。

ごん:要するに、世間一般でよく紹介されている「アゲが主張したイナリ」じゃなくて、寿司飯が「主」でアゲが「従」というバランスのイナリですね。

団長:まさに。そもそも、讃岐の「うどん」は「ばら寿司」とセットで存在していたわけだから、うどん屋のイナリは「ばら寿司」のスピンオフという位置づけで、従って、イナリのアゲは「ばら寿司」部分の寿司飯を越えて主張したらいかんのや。

ごん:うーん、筋が通っているような、丸め込まれてるような…(笑)。じゃあ、イナリの形は俵型と三角とどっちですか?

団長:どちらでもない。

ごん・H谷:えーっ! イナリの寿司飯を包む油揚げって、基本、三角に切るか四角に切るかの二択じゃないですか。

団長:寿司飯を包んだ時の形は二択じゃない。

ごん:包んだ形も俵型か三角やんな、H谷川君。

H谷:ええええ。

ごん:しかも、さっきのベスト5に入っとる店も、どっちかですよね。

H谷:ええええ、ええええ。

団長:そんなんじゃない!

ごん:えーっ! 団長が変なこと言い出したぞ!(笑)

H谷:これはどう来るか楽しみですね(笑)。

団長:あのな、アゲを三角とか四角とかに切って裂いた中に寿司飯を詰めて…

ごん:それがイナリですよね。で、できたイナリの形も三角に包むか俵型に包むかの二択よなあ、H谷川君。

H谷:そういうことだと思うんですけど(笑)。

団長:違う! そんな単純な話じゃない!

ごん:あっはっは! 団長が今までのいなりの定義を変えていっきょる! あー、腹痛い!(笑)

団長:包む包む言うて、そんなキレイに袋みたいに包み込んだイナリなんか、アゲの袋の中に寿司飯がポコッと入っとるだけやないか。そんなん、讃岐のうどん屋の正調イナリじゃない!

ごん:あっはっは! 団長がムキになってきた! ひー、苦しい(笑)。でも、形は俵型と三角の2種類じゃないですか。星形のイナリとか見たことないよなあH谷川君。

H谷:ないですないです。丸いのも見たことないし。

団長:キミらは観察力ゼロか! 「鶴丸」のイナリと「柳川」のイナリと「三島」のイナリと「はなや食堂」のイナリと「大円」のイナリを、三越の地下で売っとるイナリと並べて見てみい。明らかに違うけん! もう、叫びすぎてポリープが出るわ!

ごん:だからどう違うんですか。

団長:「正調イナリ」の形は三角でも俵型でもない、「オーム型」や。

ごん:は?

団長:漢字で書いたら「王」に「虫」が3つ。

ごん:……それ、『ナウシカ』の「オーム」じゃないですか!

団長:そうだ。あの目が赤くなったら怒るやつ。

ごん:逆です。怒ったら目が赤くなるんです。

団長:あんだけおったら1匹ぐらいあわて者がおるやろ。

ごん:まあいいですけど、その「オーム型」とやらも一応、三角のアゲに包まれてますよ。

団長:アゲに包まれてるんじゃない。確かにあのアゲは最初は三角に切られたアゲやけど、イナリになったら寿司飯と一体化して、もはや三角じゃない。自らがもともと三角であったことを気付かせないぐらい「オーム」になっとる。

ごん:まあ、そう言われればそうですけど。

団長:正調イナリのアゲは、それほどオーム型の寿司飯を立てとんや。実に奥ゆかしいやないか。あれ、アゲに「お前、三角やろ」って聞いてみ? 「いえ、オームです」って言うぞ。

ごん:言うかい!

H谷:でも、「トップ5」のオーム型も、店によってちょっとずつ違いますよね。

団長:そこがオームの個性や。「鶴丸」と「柳川」は小ぶりのオーム、「三島」はちょっとシワの寄ったオームのじいちゃん、「はなや」は風呂上がりのオームのばあちゃん、「大円」は「寒っ」いうて縮こまったオームや。

H谷:ちょっと何言ってるかわかりませんが(笑)。

ごん:じゃあアゲと形はもういいとして、寿司飯はどうなんですか?

団長:寿司飯は、米の粒が立ってなくて、微妙にねっちゃり気味で、ツヤがあって、ちょっと甘め。

H谷:典型的な“西讃”のイナリですね。

ごん:具は何が入っててもいいんですか?

団長:必要以上に具だくさんにすると、「正調イナリ」を逸脱してくる。あと、ゴマの入ったイナリは今ひとつ好きになれん。

ごん:なぜに? 歯に挟まるからですか?

団長:寿司飯がばらけるからや。ゴマには粘着力がないから、ゴマがたくさん入ると「オーム」を弱くしてしまう。ゴマをなんぼ握ってもおにぎりにならんだろ?

H谷:誰がそんなことしますか(笑)。

ごん:じゃあ、紅ショウガを載せるのは?

団長:赤は危ないが!

ごん:何が危ないんですか。

団長:赤になったらオームが怒る。

ごん:どうよH谷川君、このオチ。

H谷:行き場を見失って事故りましたね。

ごん:えー、リスナーの皆さん、今回の話は単に団長の好みということで、決して真に受けないようにお願いします(笑)。

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