麺通団のうどラヂテキスト版 編集 田尾 和俊

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団長:讃岐うどん文化における「美しい所作」については、これまで「テボの振り方」と「ざるの盛り方」の話があったけど、「客」にも「美しい所作」はあるよなあ。

ごん:確かに。

団長:箸の持ち方とか、“犬食い”しないとか、口開けてクチャクチャ嚙まないとかいうのは躾の話やけど、ざるの長い麺の取り方とか、麺のすすり込み方とかで、見てて気持ちがいいぐらいの所作をするおっちゃんとかじいちゃんとかがおるんよなあ。

ごん:そういや、団長がうどんを食べる所作をベタ褒めしてた志垣太郎さんが亡くなってましたね。

団長:「石丸製麺」のCMをやってた時の志垣太郎さんの、あの「スパーッ!」とうどんをすすり込む所作は、「日本で一番かっこよくうどんをすすり込む俳優」の称号にふさわしい。

ごん:麺通団からそんな称号が出たことは、ご本人は全く知らないでしょうけどね(笑)。

団長:じゃ、「私が目撃した素晴らしいうどん食いの所作」の回を振り返ってみましょう。

松下のシンクロサラリーマン

団長:こないだ、朝早くに四国新聞の裏の「松下」に行ったわけです。

H谷:団長が朝の松下に行くのは珍しいんじゃないですか?

団長:松下はたいてい夕方に行くんやけど、その日はたまたま平日が休みになって、散歩がてらに30分近く歩いて行ったんよ。

ごん:もう隠居爺さん状態じゃないですか(笑)。

団長:ほんで、店に入って奥の注文する所に行ったら、俺の前にサラリーマンらしき男性が2人、朝からちゃんとネクタイをして、ちゃんとスーツも着て。

ごん:いや普通、サラリーマンはスーツ着てネクタイ締めてますけど、朝って何時ぐらいですか?

団長:えーと、8時半頃。

ごん:それ、普通に出勤前のサラリーマンじゃないですか。

団長:そうや! あの2人、出勤前にうどん食いよったんや!

ごん:誰でもそう思いますよ!

団長:ほんで、その2人が「かけの小」を1つずつ頼んで、うどんの入った丼をもらって湯だまりのところへ行ったわけだ。

ごん:松下の流れですね。

団長:その後、俺が大を頼んで、後ろに客がおらんかったから大将に「久しぶりです」とか言うてちょっと立ち話をしよったんや。それから俺が2玉の入った丼を持って湯だまりのところに行ったら、そこにテボが2つ引っかけてある。

ごん:ほう。

団長:見たら、さっき先に注文したサラリーマンの2人が、テボの中にうどんを入れて湯に浸けたまま談笑しよんや。俺が大将と立ち話をしてだいぶ時間が経った後に湯だまりのところに行ったのに、まだうどんを湯に浸けたまま、麺をほったらかしにして。

ごん:「旦那さん、それ、お忘れじゃないですか?」と。

団長:そうそう。それを見て一瞬、「この2人は素人さんかな?」と思ったんやけど。

ごん:麺の温める加減がわからんでね。

団長:けど、お二人は何か余裕のある感じで談笑されている。

ごん:素人さんならちょっとキョロキョロしたりするのに、そうじゃなくて落ち着いていらっしゃると。

団長:そうなんよ。ほんで俺、その2人を横目にもう一個のテボで自分のうどんをチャッチャッと湯がいて丼に戻して、ダシとネギと天かすをかけて、天ぷら2つとイナリ取ってカウンター席に座ったんよ。

ごん:どうでもええですけど、朝からどんだけ食べよんですか!

団長:「大と天ぷら2つ」が俺の健康のバロメーターや。ほんでね、食べ始める前に再度その2人を確認したら、まだテボを湯に浸けてある。「うどん溶けとんちゃうか?」と思ったけど、注意しに行くのもどうかと思ってとりあえずうどんを一口食べた瞬間、俺は「ポン!」と膝を打ったね。

ごん:どうしたんですか。

団長:「松下」のうどんは、朝一に行ったら麺がちょっと固い。

ごん:え?

団長:玉売りの製麺所やから、玉を買った人が食べるまでに時間がかかることを見越して、たぶんちょっと固めに作ってあるんや。それをあのサラリーマンはちゃんと知ってて、麺が柔らかくなるまでずーっと湯に浸けてたんや。あれは松下のプロやわ。

ごん:というか、たぶん毎朝「松下」でうどんを食べて会社に行っきょるから知ってるだけですよ(笑)。

団長:俺が松下に行く時はたいてい夕方の他の店が閉まった後で、結構ゆるい麺をいつも食べよるから、朝の麺が固いのを知らんかったんや。

ごん:団長もまだまだですね(笑)。

団長:ほんで、本題はここからや。その2人が俺と同じカウンターのちょっと右に並んで座ったんやけど、2人ともが背筋をピッと伸ばして同じ角度で前傾して、同じように左手で丼を持って、横から見たら1人しかおらんのではないかと思われるようにシンクロして食べ始めた!

ごん:えー!

団長:2人が同じぐらいの本数のうどんを同じタイミングでスッと持ち上げて、同じタイミングでスッと前傾10度になって、同じタイミングでうどんを口に入れてズッ、ズッ、ズッ。また2~3本持ち上げて口に入れて、同じタイミングでズッ、ズッ、ズッ。

ごん:いやいや。

団長:ほんで箸を持ったまま丼を両手で持って、同じタイミングでダシをズッ、ズッと飲んで、同じタイミングで丼を下にコンと置いて、箸でうどんを2、3本持ち上げて口に入れて、ズッ、ズッ、ズッ。また2~3本持ち上げて口に入れてズッ、ズッ、ズッ。

ごん:それ、だんだん話盛ってきてるでしょ?

団長:いやまあ、ちょっと誇張したけど(笑)、ラジオをお聴きの皆さんによりよく状況を感じ取ってもらうためには10のものを13ぐらいでお伝えすると、より印象深く伝わるというもんや。

ごん:10のものが30ぐらいになってるような気もしますが(笑)。

団長:まあとにかく、見事な「シンクロナイズド・イーティング」を目撃したわ。

ごん:話盛っとるにしても、美しい所作を見ると気持ちがいいですよね。

団長:さらに、そこへ来た次のお客さんが大将に「2玉」言うた瞬間、それを聞いたシンクロサラリーマンが同じタイミングでピッと背筋を伸ばして後ろの声を確認した。例えるなら、ミーアキャット状態や。

ごん:あっはっは!

団長:あの反応はさすがサラリーマンや。「私の大事なお客様かもしれん」と思ったんやろな。

ごん:いや、ひょっとしたら8時半からの会社で、実は遅刻しとるのに松下でうどん食うてから行こうとして「え、上司か!」みたいな反応をしたんじゃないですか?

団長:そういうビクつき加減だったかもしれん(笑)。しかしいずれにしろ、あれを見て俺は「讃岐うどんの緩さにかこつけて所作の美しさをちょっと忘れとった」と、朝から反省しました。

ごん:僕も改めて「人が見て美しい所作」を心がけたいと思います。

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