編集 田尾 和俊
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団長:「ゲリラうどん通ごっこ」~『恐るべきさぬきうどん』の店紹介の基本コンセプトは「楽しい、怪しい、おもしろい」ですが、それがウケて「讃岐うどん巡りブーム」が起こったもんだから、ブーム後に「怪しさ」を意識したうどん屋がいくつかオープンするという事態が起こったみたいで。
ごん:「怪しい作りの店」とか、「怪しい立地の店」とか。
H谷:「怪しいシステムの店」とか。
団長:というわけで、「ゲリ通」の連載が続いてたら絶対紹介してたのに、連載が終わったので仕方なく『うどラヂ』行きになった…という店の中から、なかなかの物件を一つ(笑)。
人間が試されるうどん屋
団長:こないだ、この3月に卒業したばっかりの学生2人が突然研究室に来たけん「どしたんや、卒業できんかったんか?」言うたら、「違いますよ」と。
ごん:そらそうでしょうね(笑)。
団長:ほんで「今日は2人とも会社が休みなんで、遊びに来たんです」言うから、「隣の『インタレスト』の部屋におったら誰か来るかもしれんから、適当に遊んで帰れや」言うたら、「そんなこと言わずに、うどん食べに行きましょうよ」って。
ごん:あっはっは! 先生が昼飯のお供に使われとる(笑)。しかもそれは、暗に「おごってくれ」と言うとるわけですね(笑)。
団長:「どこの世界に卒業した学校の先生に昼飯おごってもらいに来るやつがおるんや」と思ったけど、まあこないだまで『インタレスト』の編集メンバーやったやつらやから、仕方なく「行くか」言うたら、そのうちの1人が「ちょっと行きたいうどん屋さんがあるんです」って言うんよ。
H谷:麺通団団長にうどん屋の指図してきたんですか(笑)。
団長:はいな。それが「高瀬から詫間に抜ける道のそばにある」いうから、まあ学生ごときの知ってる店やから「たぶんあそこかあそこのどっちかやろ」と思って、とりあえず俺の車を出して、その学生に案内させながら行ったんや。そしたら途中から俺の予想を外して、信号もない道を曲がって「山の方へ行ってください」って指示があって。
ごん:ほうほう。
団長:俺が今まで通ったこともない山道や。ほんで「こんな方にうどん屋あったか?」と思いながら細い山道に入って行ったんやけど、ちょっと俺の想像を超えるシチュエーションが出てきまして(笑)。
ごん:聞きましょう聞きましょう(笑)。
団長:高瀬の爺神山(とかみやま)の西側の山裾あたりの細い道を、高瀬から詫間方面に、山裾を回り込むみたいに進んで行くんや。周りの状況は、道の右側はずーっと山が上がっていってて。
ごん:はいはい。
団長:道の左側はちょっと高い段々畑みたいになってて、脱輪したら2~3メートル落ちるという道やけど、ガードレールはない。
ごん:ボルボで大丈夫なんですか?
団長:まあ車が対向できるぐらいの道幅はあるから大丈夫なんやけど、問題はそこから店に行くアプローチや。今から口頭で描写するから、頭の中で想像してみてください。
ごん:はいはい。
団長:まず、あなたはハンドルを握って運転しています。
ごん:はい握ってます。
団長:フロントガラスから前を見ています。
ごん:見てますよ。
団長:左下に店が見えます。
ごん:なるほど、上から店の屋根が見えますと。
団長:今走っているのは、爺神山の西側の山裾の細い道です。これから道の左下にある店に下りて行きますよ。
ごん:はいはい。
団長:ちょっと先に行くと、今走っている道に対して左に、ほぼ直角に、急角度で下りていく道が現れます。
ごん:ちょっと待ってください! あの、左前方に斜めに降りていくんじゃなくて?
団長:直角に、Tの字に左に降りていきます。そういう道が付いてるんです。というか、店に行くにはその道しかない。しかもその道は車2台がとても対向できないぐらいの幅しかない上に、ガードレールもない。よって、調子に乗って曲がると向こうの2メートル下の畑に飛び込む。
ごん:もしくは、左後輪が崖に落ちる!
団長:そのどちらかです。
ごん:え、えー!
団長:そこに、今から下りていくわけです。さて、あなたは今、ハンドルを握っています。
ごん:はいはい、握ってます(笑)。
団長:フロントガラスから正面を見ながら、今から90度左に、ガードレールなしの車1台が通れるぐらいの下り坂の道に下りていきます。
ごん:はいはい。
団長:左折をすると、まず左前のタイヤが下り坂にかかります。
ごん:かかります。
団長:続いて右の前のタイヤが下り坂にかかるまでのわずかな時間、あなたは一瞬、空を飛んでいる気持ちになります。
ごん:あーっ! 一瞬、周りが空しか見えない状態になる!
団長:大げさに言うと、ジェットコースターのてっぺん状態や。ほんでそのまま、急角度の短い狭いガードレールのない坂道を下りたらすぐ、手作り感に満ちあふれた小屋みたいな店があるわけだ。
ごん:いや、なかなか衝撃的なアプローチですね!
H谷:もうそこまでで「ゲリ通」1本書けますよ(笑)。
団長:学生が来た話で1本、道中で1本書ける。
H谷:2本書けますか!(笑)。
団長:じゃ、店の描写に入るよ。まず、空き地みたいな駐車スペースに車を停めて店に行ったら、入口に、暖簾でもない、奴(やっこ)さんみたいな…半纏(はんてん)みたいなのを吊ってある。何やあれ…
H谷:法被(はっぴ)ですか。
団長:ああ、法被か。竹竿に法被の袖を通して…
ごん:あー、T字みたいにしてある。
団長:そうそう。太ゴシックの「T」みたいなやつが暖簾の代わりになってて、それに何か変な顔が付いてあるんや。
ごん:はあ?
団長:何か俺、ひょっとしたら「パラダイス」に来たんかと(笑)。
ごん:あっはっは。
団長:ほんでとりあえず店に入ったら、正面にカウンターがあってその上に貼り紙がパラパラ貼ってあるんやけど、最初にドーンと目に入ったのが、手書きで大きく「本日は店主一人につき、超セルフでお願いします」って。
ごん:あっはっは! というか、ちょっとすみません。僕、うどん歴が浅いもので、「セルフ」は何とかわかるんですが、「超セルフ」というのがよくわからないんですが。
団長:麺通団メンバーとしてはまだまだやの。ええか? 「セルフ」にはいろんな種類があって、まず食堂型の「大衆セルフ」があるやろ?
ごん:はいはい。それはわかりますよ。
団長:それから、普通の「製麺所型セルフ」がある。
H谷:ブームの人気店なんかがそれですね。
団長:それからもう一つ、客がかなり放置される「原始セルフ」というのがある。
H谷:あー、はいはい。初期の「なかむら」とか。
団長:ほんで、「超セルフ」や。
ごん:あっはっはっは! というか、最初の3つは何となくわかったんですけど、「超セルフ」で突然放り出された感じが(笑)。
団長:「超」の部分は、君の感じたままや。言うなれば、二流の現代アートの解説みたいなもんや(笑)。
H谷:ちょいちょい毒吐いてきます(笑)。
団長:ほんでね、カウンターの上にちっちゃい金ざるが並んでて、左の端の金ざるの中に千円札が何枚か入ってある。
ごん:それはお金を入れる用のざるですか?
団長:そう。ほんで2番目のざるに500円玉、次のざるに100円玉、その次のざるに50円玉…
ごん:それ、お金を入れるところではなくて、もはや「レジ」ですね(笑)。
団長:自分でお金を分類して入れて自分でお釣りを取るという「セルフレジシステム」や。ただし、そこまでは昔、「なかむら」とかで見たことあるよな。
H谷:初期の「池上」もそうでした。
団長:まあこのあたりまでは、「超セルフ」とは言え、何とか着いて行けるんやけど、その後、難問がやって来るんや。
ごん:何でしょう。
団長:その「金ざるセルフレジ」のそばに、天ぷら類が並んでいます。
ごん:はいはい。
団長:それぞれの天ぷらには、値段が表示されています。具材によってちょっとずつ値段が違います。それを取って、自分で計算して、うどんと天ぷらを合わせてさっきの金ざるの中にお金を仕分けして入れるんですが…
ごん:そこまでは何の変哲もないですね。
団長:その天ぷらコーナーの一角に天ぷらバットみたいなのが一つあって、その中にタケノコの天ぷらが7~8個入ってるんだ。
ごん:“旬”の野菜の天ぷらですね。
団長:それが、タケノコの根元から穂先までをぶつ切りにして衣付けて揚げてあるんやけど、1個ずつ微妙に大きさにバラツキがあってね。
ごん:手作り感があっていい感じじゃないですか。
団長:ええ感じなんやけど、その横に「30円~80円」って書いてあるんや。
ごん:えーっと、ちょっと待ってくださいよ。確かに大きさも部分もいろいろですから、値段も30円~80円でいろいろになるのは理解できますが………で?(笑)
団長:天ぷらバットの中に30円~80円のタケノコが混在しているわけです。
ごん:わかります。で?
団長:で、「超セルフ」なんや。
ごん:あっはっは! すると、例えば私がタケノコの先っちょの部分の天ぷらを1個取って…
団長:そこから、「あなたの感じたまま」や。
ごん:あっはっは! これは30円なのか40円なのか50円なのか、はたまた60円なのか70円なのか80円なのか、あるいは1円単位の端数の値段なのかを、自ら判断しろと。
団長:はいそうです。これはな、香川県で私の知る限り3軒目の、「人間を試されるうどん屋」だ。1軒目は、今はなき豊浜のセルフの「萬城屋」の、「肉、乗せ放題・150円」の肉がレジの真横にあるやつ。「乗せ放題」だからどれだけ乗せてもかまんのやけど、目の前にレジのお姉さんがいます。
ごん:それは人間を試されますねえ!
団長:そして2軒目が「麺豪山下」の、これまた「肉、一掴み120円」。この肉を取るところの目の前で、山下君がうどん打ちよるんだ。
H谷:「萬城屋」と同じシチュエーションですけど、「お姉さん」と「山下君」で“試され度”がだいぶ違います(笑)。
団長:しかし、この「タケノコ30円~80円」はそれらとは根本的に“試され方”が違う。「誰も見ていないところで人間を試される」という、言わば「林に打ち込んだゴルファー」に通じるような世界標準のシステムだ。
ごん:いや、素晴らしい。
団長:というわけで、興味のある方はぜひお試しを。
ごん:人間をね(笑)。
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